2021/12/30

データで振り返る2021

年内最後の更新です。天皇杯の決勝に進んだものの敗北。それでも準決勝から素晴らしい戦いっぷりだったのでグッドルーザーとして何となく良い年だったな・・・って感じで終わっていますが現実的にはJ2降格という結果なので猛省が必要です。振り返ります。開ける必要のない箱を開けます。



毎年データをまとめて終わることにしていますが、ちょっと調べてみたところ今年のリーグ戦のデータは21敗という結果と相まって「弱かった」データに偏りまくっていまして、クリアとか守備的な切り口だと優秀な指標になっていますがそれ以外は全ての指標がリーグ下位に沈んでいました。守備的な指標を切り取っても、それって攻められっぱなしだっただけで優秀だったとも言えず、今年のデータに限ってはあまり見どころを定められませんでした。箱を開けてもどうしようもない数値しかありませんでした。気になる方はフットボールラボさんをご参照下さい。https://www.football-lab.jp/oita/



https://www.football-lab.jp/oita/formation/?year=2021

2021シーズンのスタメン。町田、下田、三竿がどっぷり主軸。得点を生み出せるFW、右サイドと三竿以外のCBについて不足していた感は否めない。主軸が少ない印象。今シーズンは開幕前に主力を抜かれたことが不調の原因だという話しになってしまいがちですが、私は開幕当時に選手のポテンシャルは上がっているという仮説を持っていました。実際天皇杯で見せた粘り強さやリーグ戦の終わり際のパスワークなどを見る限り、強化部の補強は間違っていなかったと感じたのだけれども成熟と発見が間に合わなかったというのが一つの誤算だったか。ペレイラのCB定着を早期に発見できていれば結果は違っていたかもしれない。



https://www.football-lab.jp/oita/formation/?year=2020

ちなみにこれが2020年のスタメン。過密日程でターンオーバー気味ではあるものの、主軸はいて、入れ替えしていたスッキリ感はある。スタート時4バックも無かった。2年間FWについては悩みを抱えたままだった。得点力は解決できず。主軸になり切れなかった選手たち、特に大卒で加入した選手たちに対しては正直なところガッカリ感があります。私の仮説の拠り所は、強化指定で大学生からJ1を経験させつつ、大切に投資をして獲得につなげてきた大卒選手たちが主軸になる想定だった。しかし、J1レベルでは誰一人主軸になっていないことが現実です。思い返せば鈴木義宜だって最初はJ2スタートだったし、プロのレベルに慣れるにはJ2で経験を積んだ方が早道なのかもしれない。J3の経験は余計だったかもしれんけど。とにかく来年こそはJ2でバリバリやって欲しいのです。このJ1での経験を得てのJ2ですから、大卒選手たちへの期待感というか、使命感というか、そういうものに期待したい2022年です。多少強引に総括するならば半強制的にやらざるを得なかった主軸の世代交代に失敗した、ということだと思います。実績のある選手を夏に補強したのもその現れだと思っています。



片野坂体制6年という長期政権が終わったこともあり、ここ10シーズン分のデータも集めてみました。スマホだと小さいかもしれんが何とかして見てくれ。色々なところからデータをかき集めた手計算なので微妙な間違いがあったらご容赦下さい。まずはボール支配率を見て欲しい。2016年の片野坂監督就任後、如実に平均ボール支配率が高まっていったことが判ります。田坂監督時代の堅守速攻的な戦術からボールを握るスタイルへの変更。平均得点や平均失点、支配率からスタイルが垣間見える。ボールを50%以上握れなくなった2021年に降格。戦術を磨き切れずに現実と折り合ったJ3時代よりもボール支配率が下がったので相手チームの片野坂対策という意味で限界でもあったのではなかろうか。1試合平均の得点率が1を切ったシーズンは全てカテゴリが降格している。得点が取れないチームには厳しい現実が突き付けられます。


J1でのみトラッキングのデータが公表されていて、総走行距離の平均値はリーグで常に3位をキープしていた。交代枠が広がった影響の方も大きいだろうけれども走行距離は延びていた。J1でも上位の走るチームであったこと、ファウルの少ないチームであったことは好感が持てた。負ければグッドルーザー止まりだけれども、そのスタイルで勝ち抜いた2018年が戦術のピークだったと今でも思う。2桁得点をした選手が4名という、チームで得点を取るスタイルが素晴らしいチームだった。これ以上は強くならないだろうという寂しさも感じた2018年の感覚は間違っていなかった。2019年はJ1でリスクを抑えて失点を少なめにする生存戦略スタイルへの変貌と、フランス2部で結果を出しているオナイウが凄かったという年だったのではなかろうか。


経営危機からのJ3降格経て、ようやくJ2の中の上くらいの売り上げ規模に戻れた矢先のコロナ禍。入場料収入も上昇の兆しを見せていたのに無観客試合になってしまいクラブの規模を大きくするチャンスを逃した。折角のJ1昇格で広告・スポンサー収入も増えていただけに惜しい。運が無かった。全Jクラブが同じ状況ではあるため差異が出ていないことだけが救いではある。今はJ3のクラブを含めて競争激化の一途。人件費も復活して10億円以上使えたのは何年振りだって話です。J2では10億円使えれば上位に入れる。この人件費、今年度どういう数値だったのかは春ごろに判明です。19年よりも下がっている可能性もある。コロナ禍とJ1残留失敗がこの後のシーズンにどう影響するのか。これまで経験してきた困難に比べるとただのJ2降格だけなら大したこと無いと感じてしまうのが良いことなのか悪いことなのか。次の10年がまた楽しみですね、どっぷりJ2に10年なのか、もう1度ひょっこりJ3に顔を出してしまうのか、J1に返り咲けるのか。ボールを握るスタイルでもう1度どこまで突き詰められるのか。やり直しの1年目、重要です。


では皆さんこのへんで。今年も1年、ブログを読んで頂いてありがとうございました。来年の新体制スローガンを予想しながら、良いお年を。



2021/12/20

2021年 天皇杯決勝 浦和戦

【浦和 2 - 1 大分】


夢の舞台。今まで自分が応援するクラブが天皇杯の決勝に勝ち残ることを何度想像しただろうか。何度妄想しただろうか。初めてその栄誉を勝ち取ってくれた大分トリニータが、新しくなった国立競技場に連れて行ってくれました。結果は残念でしたがすこぶる幸せな時間でした。


国立無敗神話を信じ切っていたが故に、前日の夜に先にささやかな祝勝会を済ませておくくらいには勝つつもりでいました。えぇ、私もう勝ったと思っていたのですこぶる冷静に観戦。カップを掲げるところまで想像できていたので録画済みの映像を観るくらいの感じ。



2008年、もう13年前になりますがナビスコカップ決勝で初めてのタイトルを獲った想いでの地、その時に一緒に観戦した親友を再び誘ってゲン担ぎ。昔の思い出を話しながら、色々と感傷に浸っていました。あの後の経営問題、J2降格、プレーオフで再び国立競技場経由でJ1に戻ったこと、J3に落ちたこと。クラブが無くなってしまうかもしれないというところまで経験したクラブが、J3を経て再び3大タイトルが手に届くところまで戻って来れた。その過程をずっと見て来たけれども、友達と話しながら、ふと冷静に振り返って考えると本当に夢のような話。現役の全サッカー選手が出場できる可能性を持つ夢のある、伝統ある大会天皇杯決勝。あらためて素晴らしいと思いました。


決勝の相手は浦和レッズ。長年チームを支えたレジェンド阿部勇樹の引退に加え、槙野・宇賀神がチームを去ることになり、1試合でも長く試合をしようと団結して勝ち上がって来た。片野坂体制最後の試合としてまとまる大分トリニータと浦和レッズ。2021年最後の戦い。素晴らしいストーリー、素晴らしいピッチ、素晴らしい天気、素晴らしい環境。日本サッカーの頂点を決める頂上決戦にふさわしい雰囲気でした。それは間違いなく色々な人たちの尽力でほぼ満員の観客を実現できたから。


2021年のもう一つの戦い、感染症と人が集まるイベントとしてのプロサッカーの戦い。川崎で行われた準決勝では残念ながら感染者が確認されて濃厚接触者が出てしまった。興行として他業種、各種イベントのためにもクラスターを出さないように、声を出さずに応援し、ノンアルコールで我慢です。拍手するか、旗を振るしか出来ないけれども、それでも5万7千人を集めて開催することが出来た。スポーツイベント復活に向けた大切な取り組み。この面でも勝利を目指して、現地に行った人には自重が求められます。大分からも久々の大移動で多くのサポーターが移動。感染対策は継続して頑張りましょう。



両チームゴール裏ではコレオグラフィ。素晴らしかった。2つ目の星を獲りたかった。このコレオグラフィを準備する労力はどんなものだろうか。どれだけ大変だろうか。サポーターが無償ボランティアで天皇杯の価値を高める取り組みをしてくれる訳です。JFAの田嶋会長のためじゃなく、チームのためです。JFAは天皇杯決勝のチケットをスポンサー向けに無駄に使い過ぎだと思うんですよ。何に使っているのか謎ですが、変な割り当てする癖に使いこなせない。メインスタンドの良い席に空席が目立つんです。毎年感じるのですが、もっと一般サポーター向けに振り分けてくれても良いのではなかろうか。謎の空席は良い席ほど多い。JFAの営業活動、この夢しかない空間を売り物に出来ておらず、そこだけが残念。

先発メンバーは前節を引き継ぎ。怪我で不安視されていたペレイラも井上健太も元気そうであった。ベンチには刀根が戻る。この決勝のベンチに弓場が入れた。若くしてこの場を経験出来たことは意味がある。次世代に繋いでいこう。


対する浦和。大分トリニータが生み出した日本代表GK西川が先発。最後の最後に立ちはだかる強敵。強敵と書いて「とも」と読むやつです。カウンターで厄介なユンカー&小泉。川崎よりスピードがある前線の印象であった。サイドバックの酒井宏樹はイメージが変わった。全般的にパフォーマンスの低さが目立っており本調子ではなかったのか、代表戦とかもっとクオリティが高かったイメージなんだけどJリーグに馴染んでしまったのか何なのか。楽しみにしていただけに拍子抜けではありました。



試合はもう、面白くなくても良かったんですよ。トーナメントの決勝なんてね、バンバンボール蹴って堅い試合運びしてなんぼじゃないですか。ワールドカップだって何だってそういうもんだと思っているので、試合内容に期待はしていませんでした。結果だけを求めていた。しかし、予想に反してクオリティの高いポジショニングの応酬から開始。結果だけ残せれば良い一発勝負にしては両チームのこだわりが出た試合になった。そんな中でも特に浦和のスピードには手を焼いた。川崎戦と同じ4-3-3的な、4-4-2のダイヤモンド戦術を継続したトリニータ。技の川崎、スピードの浦和。同じ対策で合っていたのか。結果論として、浦和に対しては3-4-2-1の守備時5枚でスペースを埋めた方が守り易かったんじゃなかったのか。なるべく0-0の状態を長引かせたかったはずのゲームプランに対して、7分で先制を許してしまった。それでも1点差を継続できたのでアプローチとしては間違っていなかったとは思う。もしもを考えるなら試合の入りはどちらであるべきだったのか、敢えて書くならそれくらいでしょうか。試合の入り、カマせなかった。


後半はボールを握って盛り返すことが出来た。前線に人を割くことが出来るようになったけれども、よりリスクを取った印象で、ユンカーのカウンターをペレイラとエンリケ、高木がギリギリのところで抑えてくれたからこそ攻撃が成り立っていた。コーナーキックがいちいち惜しく、西川周作の秀逸なパンチングがなければあわよくばの場面は作れていた。浦和の守備陣が破たんすることが無いまま、残り時間が少なくなっていった。リカルド・ロドリゲス監督が逃げ切りで送り出したのが宇賀神、槙野と立て続けに投入。長沢を投入してパワープレーに移行していたピッチの中で、守備の強度を増そうとしていたはず。そんな中得たFKで下田・高木の来季の契約更新をしたコンビが仕掛ける。



この試合、再三最終ラインに落ちて後方から試合を組み立てた下田北斗。パワープレーでも左の最終ラインから組み立て、前線へのボール供給元となっていた。FKを蹴ろうと見せかけてダッシュ、GK高木が変わりにFKでパスを下田に供給して左サイドの深い位置まで移動するトリックプレー。右足で上げた下田にクロスに飛び込んだのはフリーになっていた長沢、エンリケ、ペレイラ。守備要員槙野どこに行った。




クロスはペレイラのヘディングシュートに繋がり、後半アディショナルタイムに遂に西川の牙城を破ることに成功。ゴール裏は無言のお祭り騒ぎ。川崎戦同様、しつこくパワープレーで追いつくことが出来た。槙野を投入して試合のクロージングに失敗した浦和の采配ミスにしか見えなかったので困惑したというのが正直なところ。下田のセンタリングもペレイラのヘディングも素晴らしかった。


その後、槙野が勝ち越しのゴールに絡んだので更に困惑。最後の10分は不思議なジェットコースター。同点後に、延長戦に入るよりもリスクを取ることを決めたのは西川周作だったらしい。ヒーローインタビューで槙野が語っていたけれども、槙野を前線に上げた判断、それが勝ち越しを生んでしまった。強い運とリスクをとった行動、ダイレクトでシュートを打てた技術とヘディングの技術。


トリニータの延長戦への道は奪われてしまった。このままタイムアップ。残念ながら天皇杯に一瞬だけ手がかかった気がしたものの最後は槙野に持って行かれてしまった。意地は見せられたものの、届かなかった。国立一敗。



試合後、円陣となった時間が長かった。片野坂体制最後の試合。次の試合はもう無い。それでも監督が中心となってレビューが行われた。これは率直に言って驚きであった。最後の試合、お疲れ様でしたで終わって良かったはず。最後の最後まで選手の、クラブの次のことを考え、実行させるマネジメントをやり通した監督であった。
毎試合ロッカーでこういう雰囲気だったのかなと、表彰式でピッチ上で行わざるを得なかった最後に今までの積み重ねが想像できた。もしも天皇杯で優勝していたら次の監督としたらたまったもんじゃなかったろうけれども、松本怜が夢を見たACL出場はならず、普通のJ2を普通に戦うチームとなります。ルヴァンカップには出れるけれども。




最初のタイトルから13年を経て、J3を経由し、決勝の場所に戻れたこと、失敗も沢山あったかもしれない、それでもそれを糧に大分トリニータは何度も這い上がって来た。諦めずに応援をすると必ず夢を見せてくれた。悔しい結果だけれども、それでも大分トリニータは全ての悔しさを次に繋げて来たクラブである。だから下を向く必要は無い。ただのグッドルーザーではない、未来に勝利者となるためにこの試合からまたスタートです。そうやってこの場まで戻ってこれたのだから。準優勝、賞金5000万円。得たものの方が大きい。また少しずつ、前進して行きましょう。まずはまたJ1に戻れるように。




今シーズン、全試合レビューにお付き合い頂きましてありがとうございました。片野坂監督、コーチ、スタッフ、選手、サポーターの皆さん本当にお疲れ様でした。苦しいシーズンでした。それでも夢の舞台に連れて行ってくれてありがとう。また来年、J2から立ち上がりましょう。町田、下田、高木と背骨となる選手は残ってくれました。ちなみに2008年から始めたこのブログ、次にタイトルを獲るまで止めないと意地だけで続けてきましたが最大のチャンスを失って継続せねばなりません。あぁ最終回にしたかった。また来年もよろしくどうぞ。今年1年、ありがとうございました。






2021/12/13

2021年 天皇杯準決勝 川崎戦

【川崎1 - 1 大分(PK 4 - 5)】


とんでもない試合を生観戦してきました!伝説に残るような1戦となった2021年天皇杯準決勝。Jリーグ史上最強と謳われる王者川崎を相手に、J2に降格が決まっているトリニータが如何にしてこの結果を導き出したのか。見どころが多すぎて全部書けないくらいの情報量。とにかく良い試合だった。両軍が褒め称えられるべき素晴らしい試合。この試合を観に行った人、孫の代まで自慢して良い。戦術的にもストーリーとしても面白かった!今シーズンのベストゲーム。リーグ戦の反則ポイントがダントツで少ない川崎と2位のトリニータの試合は純度100%で濃かった。



まずはこれまで各方面で辛抱して来た観客動員の上限が、試験的という条件付きではありますが遂に、遂に、撤廃となりました。いやー、長かったですねぇ・・・。まだ試験的とは言え、ようやく通常のスタジアムの風景を取り戻すことが出来ました。真面目に声を出さずに応援を続けた全サポーターが報われる日が来ました。この試合もまだ声は出せませんでしたが、最後の最後、展開的にどちらのサポーターからも声が出てしまっていたけども。




とにかく大きな前進です。これまでJリーグが中心となって計画して来た最後の成果をJFA、日本サッカー協会側の、田嶋会長の手柄に取られたような気もしなくもないのだけれども、これで感染が広がらなければ来年のJリーグは通常イベントとして元に戻せるのではないでしょうか。本当に大きな一歩になると思います。田嶋会長のことは好きになれませんが、やはりスタジアムは満員の方が良い。この久々の条件が試合に対する熱を帯びさせる要素の一つになったことは間違い無かった。




既婚者と未婚者。カブが結婚するなんて予想外過ぎるストーリーを作り出した川崎の広報は相変わらず頭がおかしい(※誉め言葉)。この日は12月12日、我が軍が誇る癒し系マスコットニータンの誕生日であった。残念ながら本体をスタジアムには連れて来れませんでしたが、巨大なぬいぐるみを持参したがる性癖の人が本日も率先して身代わりニータンを連れて来て穴埋め。ニータン永遠の5歳。誕生日おめでとう。


リーグ戦とは違い、勝たなければならない一発勝負のトーナメント。負けない試合さえすればPK戦にまで持ち込めるためジャイアントキリングと呼ばれる番狂わせが発生しやすい。トリニータとしては守備ブロックを形成して我慢に我慢を重ねる対策をするのが王道だけれども、リーグ戦での川崎戦ではいずれも辛抱できずに失点して屈している。守り切るには策が必要なはずで、この対川崎戦の策をどのように準備するのか、大変楽しみにしていたのでありますが予想の上を行きました。



スタメンが発表された時点では並びは分からず。まずはこれまで積み重ねてきた3-4-2-1をベースに考えるじゃないですか、普通は。この体制の集大成として臨んでいる一戦で、自分たちの形をまずは考えるはず。しかし、リーグ戦ではけちょんけちょんで手も足も出せなかったので天皇杯準決勝では奇襲に出た。試合開始直後に判明した並びは4バック。中盤がダイヤモンド気味だけれども、4-4-2というよりは4-3-3に近い形で川崎に対してミラーゲームに近い形に持ち込むような並びになっていた。完全なミラーじゃないけれども、近い形。ペレイラとエンリケの2CBに左に三竿、右に小出を配し、アンカーに小林裕紀、その左右に内側に絞り気味で町田と渡邉新太が陣取り、トップ下に下田で小林成豪と伊佐のツートップという形で守備体形を作った。6年間の片野坂体制で初の陣容な気が。ここに来て勝利のために新しい策を準備してくる監督コーチ陣。J3から這い上がった漢達の最後の仕上げ仕事だった訳です!この陣容にはプレスでハメてショートカウンターという意図と、もうひとつの川崎側の事情を、唯一突破できる穴を作るための執拗な攻撃の意図があったように感じた。良い所と悪い所がある戦術をギリギリ運用し切っての戦いであった。

対する王者川崎のメンバー。我が軍はシーズン開始前に主力が流出したのが降格の要因だと言われていますが、川崎も主力をシーズン中に海外のクラブにバカスカ引き抜かれている。それでも優勝出来るんだから主力が抜けたことを言い訳には出来ません。選手層が違っていてもだ!言い訳すんな!川崎はその上でジェジエウが35節鳥栖戦で大怪我を負ってしまい帰国中。リーグ戦で相まみえた時は攻撃という攻撃をジェジエウに滅せられたトリニータにとって、代わりに入った28番山村が相手であればワンチャンあるんじゃないのか大作戦。というか、それ以外にリーグ戦で28失点しかしていない強固な川崎の守備を破る策が思いつかない、消去法的な攻撃策。実際山村は穴どころか逆手にとって得点を狙うくらいの出来だったので普通以上の守備強度は保っていた。川崎の守備を破るには体力尽して何度も叩いて割るしかない。今シーズンを制覇した鉄壁の4-3-3。頂点にはめちゃくちゃ守備を頑張る得点王レアンドロダミアン。2021Jリーグベストイレブンだらけのスタメンと対峙。





最初の見どころは奇襲となった試合の入り。川崎が混乱するほどではなかったにしろ、プレスはハマり、上々の滑り出しとなった。最初から引いて守るでは耐えられないからこそ選んだ攻撃的な手でありながら、ペレイラとエンリケ二人がかりでレアンドロダミアンを封殺する必要がある守備のリスクも負わなければならなかった。それでも抑えられない決定機には高木が立ちはだかった。トリニータの攻撃は小林成豪が山村に積極的に1対1を仕掛け続ける、対山村1点突破。しかし山村は決して穴では無いのよ。しっかりとした対応を続けられてしまった。理想は早い時間の先制だっただろうけれども、川崎が見せた柔軟性というか、戦術に対する対応力みたいなものの凄みも見せつけられて15分を過ぎたあたりでプレスに対するポジショニングを修正された感じであった。プレスが剥がされるようになるまで時間はかからなかった。しかしこの15分が重要であった。全員が元気な状態の前半を無失点で凌げたことが大きかった。相変わらず自由過ぎるポジショニングの家長からボールが奪えない。厄介な男すぎる。


後半もペレイラとエンリケで何とか川崎の攻撃を凌ぎ続けた。先に動いたのは川崎。怪我上がりの大島には無理をさせず、マルシーニョを交代投入。トリニータも前線から異常なプレスを続けた伊佐と小林成豪に限界が来たため、松本怜と井上健太を投入。ここが戦術2つ目の見どころ、スピードでひっくり返す策。これは予想出来ていました。最前線に井上健太を投入して「戦術:井上健太」は使うだろうと。Jリーグ屈指の俊足を誇りながら結果を出せなかったのでまだあまり知られていない井上健太はワンチャンあると。実際、チョンソンリョンからボールを奪って下田に繋げた場面は狙いがハマった。ただ、前がかりになりっぱなしになった川崎に裏のスペースはあれども、即時奪還の寄せが速すぎて井上健太を活かせるような正確なボールを出せる場面が少なかった。80分過ぎ、レアンドロダミアンと旗手が下がり、小林悠と知念が交代で入った。レアンドロダミアンに得点を許さなかった2センターバックと高木はこの時点で賞賛に値する。もうダメかと思ったピンチが何度もあったけれども、好セーブでピンチを救い続けてくれた高木が今日は凄すぎた。獅子奮迅の活躍でした。90分を無失点で終えた。今シーズン、等々力競技場ではリーグ戦で勝てたチームはいない。2敗しかしていない川崎は福岡と鳥栖で負けている。本拠地で川崎を倒せたチームは無いのだ。その相手に90分で無失点はほぼ勝利に値する。しかしこれは天皇杯。延長戦へと入って、「もしかすると」という雰囲気はスタジアムに出始めた。打っても打っても今日は入らない、そんな雰囲気になりつつあった。



アクシデントは延長前半、ここまで完璧な守備を遂行してくれていたペレイラが痛んで坂と負傷交代。守備の要を失ってしまった。延長後半に入ってから、何が起きてもおかしくないPK戦だけは避けたい川崎。勝負に出た鬼木監督、3枚替えを敢行。家長、橘田、脇坂を下げて小塚、遠野、塚川を投入。この交代が当たる。右サイド裏を抜けた小塚が必死でクロスを送ると小林悠に押し込まれて遂に失点。ここまで耐えに耐えた守備陣が遂に破られて万事休す。小塚さん、そんなに必死にアシストするタイプじゃなかったと思うのだけれども、川崎だと120%でプレーしないと出場できないらしい。我が軍でも120%でやって欲しかったです。卒業生の素晴らしいアシストであった。


川崎相手に延長後半に先制されてしまい、さすがにもう厳しいと思っていましたよ、私も。しかし、我が軍は3つ目の戦術、羽田をセンターバックに入れてエンリケを最前線に送り出してのパワープレーという最後の手段を準備していました。これまでパワープレーが形になったことはほとんど無かったけれども、この瞬間は遠野が痛んでピッチ外に出ており川崎は10人となっていた。右サイドでスローインから時間を作れたトリニータ。フリーで下田が受けるとクロス一閃。最前線でFWに転職したばかりのエンリケのヘディングにドンピシャ。この時、エンリケについていたマークは28番の山村。前半から何度も叩き続けた1点突破が結実。前半から仕掛けに仕掛けて疲弊させて、攻撃陣全員の蓄積、120分を過ぎてやっと攻略できた。山村、決して穴じゃありません。川崎からの卒業生、下田のクロスが素晴らしかった。お互いの古巣相手にアシストした元所属選手達の巡り合わせ。





延長後半に試合を振り出しに戻す劇的ゴール。これで王者川崎をPK戦に引き摺り出すことに成功。失うものは何もない我が軍、大当たりのGK高木。行ける雰囲気は出来た。


シーズンスローガンにふさわしい一致団結っぷりだったPK前の円陣。スローガンだけは間違わない大分FC。PK戦は高木には不安は無いものの、キッカーには不安だらけ。それは川崎も同じで、交代枠を使い切る激闘の末のPK戦なので頼りになる主力は不在。お互いにその中でメンバーに託す。 珍しくゴール裏を煽る監督であった。





1本目、先行トリニータは下田が決める。川崎は知念が決める。 

2本目、長沢がポストに当てて外してしまう大ピンチ。山村のキックは高木が止める。 

3本目、松本怜が左上に決める。ドキッとさせるベテランめ。川崎は小塚が決めた。 

4本目、エンリケが決める。塚川がポストに当ててトリニータ先行。 

5本目、決めれば勝利のプレッシャー。置きにいった小林裕紀のキックはソンリョンに止められた。小林悠は決めてサドンデスへ。小林対決でした。 

6本目、三竿が決める。川崎キャプテン谷口も決める。 

7本目、大エース町田也真人が当然の如く決める。大エースだからな。川崎は日本代表山根のキックを高木が右手で止める。キーパーの動きを観てから逆を蹴ったはずの山根、真ん中に蹴ってしまった。この試合、高木の右手には神が宿っていた。全員が駆け寄るも勝利したことに気付いていない高木。PK戦のルールを忘れるキーパーなんかいるのか。集中してゾーンに入り過ぎていた模様。VARチェックを経てゴール認定。大分トリニータ、初めての天皇杯決勝に進出。













10回戦ったら9回以上は負けそうな川崎相手に一発勝負で何度も追い込まれながら跳ね返した試合でした。土俵際まで追い込まれながらうっちゃった。プロ選手の中でも天皇杯の決勝でプレーできる人はほんの一握り。遂に夢の舞台に辿り着いてしまった。






今年の天皇杯は組み合わせからして、天皇杯側から近づいて来ているくらいの巡り合わせを感じていた。夢の国立競技場、天皇杯決勝。クラブ創設から20年以上を経て、初めての舞台。これは行くしかありません。色々な理由を付けて行かない言い訳を作り出して自分を納得させて、次の20年後のチャンスまで後悔するよりも行くしかありません。あなたの職場は、家族は、あなたが1日居ないだけで崩壊しません。崩壊したとしても気にするな。行くぞ国立。チケットが無いとか移動手段が無いとか気にするな。東京に向かえ、何とかなる。120分以上の戦いでペレイラも怪我をし、井上健太も負傷していてチームは満身創痍だけれども大丈夫、高木とエンリケと下田と町田と伊佐が元気なら何とかなる。リーチ一発国立無敗。俺たちはもう勝っている!